気延物語

案その四 気延物語

 

この話は、私の住んでいるところから階段を上がって廊下を五歩ほど歩いた二回の真ん中の部屋。紫色の扉の向こうに住んでいる、私の姉から聞いた話だ。

私は、この話をよく姉から聞かされていた。

飽きるほど聞かされて暗記してしまったほどだ。

本当ならもっと面白い話はこの世界もとい、私の頭の中にもきっとあるだろうが出てこないので、私はこの話をしようと思う。

 

一、姉は、私の住んでいるこの家から二〇キロほど離れたところに住んでいる。仮住まいだが、一週間のうち五日はそこに住んでいる。金曜日の夜になるとへたくそな車の運転をしながら帰ってくる。毎週そんな感じだ。

つまり、帰ってくる回数も家にいない時間も長いわけだ。だから、仮住まいの話をしてくるのだ。うっぷん晴らしに決まってる。

 

二、そんな姉が住んでいる仮住まいの名前は「気延寮」という。大学の寮だ。あんな馬鹿でも大学に行けるなんて世も末だ。その気延寮は男子寮と女子寮がある。もちろん姉は女子寮に住んでいる。

 

三、女子寮の部屋数は五部屋で、今は六人住んでいる。つまり、姉は友人と共同生活を送っているのだ。あんな自己中でも受け入れてくれるなんてと思う。女子寮は、一階建てのコンクリートの建物で、玄関を入ると廊下が一本、入って右手にお風呂。左手は順番に「談話室」「トイレ」「キッチン」それから各人の部屋があるという。

 

四、姉の部屋は、その廊下の一番端。だから、部屋に入るにはいちいち長い一本廊下を歩かなければならない。デブの姉にはちょうどいい。少しはこれで痩せるだろう。

 

五、その部屋の扉を開けたなら、足元にコードが広がっている。コンセントがタコ足状態と、うれしそうに語っていたが、喜ぶ内容なのだろうか。机が一人ひとりづつある。その下もコードだらけ。電気泥棒とは姉のことを指すのだと私は思う。

 

六、そんな姉の机の上には以外にも参考書以外何もない。参考書とノート・単語カードにと、文房具ばっかりで楽しいものなんて一つも置いていない。しいて言えば、小説を大量に寮に持ち込み、読んでいることだろう。

 

七、小説は、机の上からはみ出て椅子の下にも散らかっている。ついには、椅子の横に段ボール箱を持ち込んでその中に小説を放り込んでいるそうだ。いい加減にしないと本の虫なんて済むような問題ではない。ようは、足場はコードと本ばかりだと言うことだ。迷惑も甚だしい。

 

八、それゆえに、彼女は自分のことを賢い人だと勝手に勘違いしている。おまえが賢い人なら世界中の赤ん坊までもが賢者である。舞い上がるのもいい加減にしないと恥ずかしい思いをするだろう。まぁ、私の知ったところではない。

 

九、これも、姉の愚痴で聞いた話なのだが、寮の御飯は恐ろしいらしい。量は多い、食べにくい、油ものばかり・・・。でも、食べなければ人間は死んでしまうと良いながらすべて食べているそうだ。好きなものだけ。

 

十、そんな姉だが、私も少しだけ尊敬するところがある。それは、姉は大食いだと言うことだ。農業を勉強しているだけあって食べ物は大切にしているようだ。誰かから奪っていなきゃ良いが。

 

十一、     それから、姉は自分にはファッションセンスがあると思い込んでいる。誰か、目を覚ませてあげてくれないか?学校にいる間はまともな服を着ているが、寮にいる間は馬鹿みたいに魔女を名乗り真っ黒なスカートに灰色の服。灰色のカーディガンを羽織っている。ここまでくると、家から追い出したくなる。

 

十二、     それから、寮生活は少しくらい図々しく生きなければ生活できないと聞くが、姉のことだ、図々しい生き方をしているだろう。せいぜい譲ってお風呂くらいだ。あとは、感情にまかせて生きているんじゃないかと思うと、周りの人達に申し訳が立たなかった。

 

十三、     夜寝る前に勉強をしているらしい。馬鹿なんだからそのくらいの努力は必要だろう。周りがよく勉強するから姉の馬鹿加減が浮き立つ。こんな馬鹿を引き取ってくれている先生に感謝するべきだろう。

 

十四、     気づけば、寮の話ではなく姉の話になっていた。しかし、姉の寮生活はこのような顔にも似た醜さをはらんでいるのがおわかりいただけただろうか?

 

十五、     こんな、ばかばかしい話につきあってもらって悪いんだけど、こんな醜い姉とさ、これからも仲良くしてくれとは言わないから、せめて笑ってやってくれる?私も母親も笑うのは苦手なんだよ。だから、姉は人を笑わすのが好きなんだ。それが人を傷つけていると知っていながら。

 

十六だからさ、せめて笑ってやって欲しいんだ。あいつの努力を認めて欲しいんだ。そんなに何度も出なくて良いからさ。

 

十七、     寮に住んでいる姉のことを考えるのは虫ずの走る話だ。君もこの話を見てそう思わなかったかい?だけど、これが私の姉なんだ。変えられない現実だ。

 

十八、     気延寮のお風呂がカビで真っ黒なのと同じなんだよ。とれないんだ。だからさ、せめて姉のことを知ってもらえるようにこの話を書いたんだ。

 

十九、     まあ、書いたとしてももう遅いけどね。姉はこの間胃に穴が開いて死んでしまったのだから。原因は何だったんだろうね。私にも分からない。醜かったから敵も多かったんじゃないかな。

 

二十、     だって、寮のお風呂場で包丁がおなかに刺さっていたら、誰でもそう思わない?まぁ、姉だから仕方ないか。

 

 

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